第19回全国夕陽サミットin熊本県湯の児温泉
"負"の遺産をプラスに―再生の夕陽
第19回全国夕陽サミットin熊本・湯の児温泉が9月28日、熊本県水俣市湯の児温泉・湯の児 海と夕やけで開かれました。水俣病が発生したまちとして知られる水俣市で「再生の夕陽を愛でる~負の遺産をプラス志向で推進するSDGs未来都市・水俣~」をテーマにシンポジウムを行ったほか、海と夕やけのシーサイドテラスで夕陽観賞会を実施しました。
湯の児 海と夕やけのシーサイドテラスから望む夕陽。
不知火海を手前に岬の向こうに輝き沈んでいく
あいさつ 「もやい直し」とSDGs
サミットは、夕陽と語らいの宿ネットワークの岸本一郎会長に続き、みなまた観光物産協会の福田豊樹代表理事が次のようにあいさつしました。
「ネットワークは夕陽を見るだけでなく、語らうことに重点をおいた組織だと聞きました。水俣には水俣病と正面から向き合い対話し協働する取り組みを『もやい直し』と名付けており、この考えに沿うものだと思います」。もやい直しとは水俣病の影響で疎遠になった自然と人、人と人との関係をつなぎ直すことを意味し、まちを再生する原動力になったと福田さんは伝えました。
髙岡・水俣市長講演 語らいが水俣再生の源泉
続いて水俣市の髙岡利治市長が「再生したこれからの水俣づくり」をテーマに講演しました。
水俣市も人口減少と高齢化社会の到来が現在の最大の課題。ただ、九州新幹線や南九州西回り自動車道による交通インフラが整い、海や桜、温泉など自然環境を有し、スポーツ観光拠点のエコパークみなまたの活用、農林水産物のブランド化にも取り組んでいます。髙岡市長はこうした資産を活用して「交流人口を増やし、定住人口の増加につなげる施策を推進しています」と話しました。
その推進力の源泉は、髙岡市長が1992年に日本で初めて「環境モデル都市」宣言を行い、その後もゴミの分別など環境に配慮した施策や取り組みを重ねてきたことです。2020年には「SDGs未来都市」に認定さたほど、環境保全の先進地になっています。
最後に髙岡市長は「水俣市では美しくノスタルジックな最高の夕陽を見ることができます。夕陽を見ながら語り合い、魅力ある観光まちづくりを進めたいと思います」。
「夕陽を見ながら語り合いまちづくりを進める」
と話す高岡市長
パネルディスカッション "ありのまま"に誇りを
パネルディスカッションは福田さんをはじめ、俳優で夕陽評論家の油井昌由樹さん、九州観光旅館連絡会の松瀬裕二さん、海と夕やけの田尻泰比古さん、和歌山県加太淡嶋温泉ひいなの湯の利光伸彦さんをパネリストに「負の遺産を観光素材、地域づくりに」と題して話し合われました。
油井さんは「世界をみても夕陽と朝日を同時に楽しめる所、夕陽がどこにいつ沈むかを教えてくれる所は少ない。そんな所になってはどうでしょう。水俣の名は世界で知られています。"負の遺産"という言葉を使わず、ポジティブな情報発信をすべきです。人類はいろんな問題を乗り越えて今があります。自信を持ってください」。
松瀬さんは「髙岡市長が話されたように、水俣には素晴らしい素材がそろっています。地元の事業者と一緒になって発信力を強め、頑張っている中小旅行会社をターゲットにした誘客を行うことは重要です」。
利光さんは「地元の人が地域の歴史文化を知り、誇りを持つ地に人はひきつけられます。観光はセンスが大事。水俣の皆さんが理解し行動することでリピーターを確保できると思います」。
3人の発言を受けて田尻さんは「不知火海に沈む夕陽を眺めることのできるオーシャンビューの客室を持つこの施設は『海の劇場』だと思っていました。夕陽を見るだけでなく、地域の人たちの人柄を知ってもらうために同じ劇場の運営者として社員が観客であるお客様に語りかけるように努めています。今ある素材をしっかりと活用していかなくてはいけない使命感を持っています」。
福田さんは「負の遺産を隠すべきか、生かすべきか、まだ議論が終わっていないのが実情です。私自身は生かすべきだと思い、ありのままを知っていただくことが水俣の本当の魅力が伝わるという考えです。市外の人を交え考えていいかもしれません」。
「負の遺産を観光素材、地域づくりに」と題して
行われたパネルディスカッション
講演、パネルディスカッションを踏まえて湯の児 海と夕やけの松島かおりさんがサミット宣言文を読み上げ、全員で採択しました。
最後に夕陽と語らいの宿ネットワークの浅野謙一副会長が「第20回の記念すべきサミットは香川県・小豆島で開催します。多数のご参加をお待ちしています」と呼びかけ、施設内のシーサイドテラスで夕陽観賞会を開催しました。
今サミットでは、会員の多くは前日に大阪南港―福岡・新門司港を結ぶ名門大洋フェリーで九州入りしました。名門大洋フェリーも会員で、残念ながら今回は夕陽を見ることはできませんでしたが、季節と時間が合えば船上から美しい夕陽を楽しむことができます。
湯の児 海と夕やけの
シーサイドテラスで行われた夕陽観賞会
湯の児温泉と不知火海の夕陽
今回の旅で訪れた「湯の児温泉」は熊本県の南端、鹿児島県との県境に近い水俣市に湧く温泉である。海岸沿いに温泉宿が建ち並び、春は花見客、夏は海水浴客で賑わい、SUPをはじめマリンアクティビティも盛んな地だ。
大阪から名門大洋フェリーの船に揺られること12時間40分。新門司港で九州に上陸した後は、小倉駅から鹿児島中央駅行きの新幹線さくらに乗り継いで新水俣駅へ。さらに峠道を車で15分ほど越えていくと温泉宿「湯の児 海と夕やけ」にたどり着いた。目の前は不知火海だ。
日本名湯100選に選ばれた源泉かけ流しの湯で旅の疲れを癒した後、つり橋を渡って「湯の児島」の散策路を歩く。島内には石造りの亀が点在していた。これはかつて傷ついた1匹の大海亀が渚に湧き出た温泉の湯浴みで傷を癒していた伝説にちなんだもの。湯の児温泉は別名「亀の湯温泉」とも称されている。
空に夕焼雲が流れはじめると、海面は茜色に染まり、キラキラ煌めきながらその輝きを増していく。赤に黄色にと明るい色彩が温泉街を照らし、沖に浮かぶ天草の島々はやわらかい光のなかに溶け込んでいった。この絵は、その感動的な夕暮れの一幕を描いたものである。
(絵と文 井上晴雄)