第12回全国夕陽サミットin兵庫県赤穂市
城と夕陽―夕焼け資本主義で創る未来
夕陽と語らいの宿ネットワーク(岸本一郎会長=滋賀県長浜太閤温泉・浜湖月)主催の「第12回全国夕陽サミットin赤穂」が9月23日、兵庫県赤穂市の赤穂市民会館と赤穂温泉・潮彩きらら祥吉で開かれました。サミットはネットワーク会員施設が所在する地域で毎年開催しているもので、今年は「城と夕陽~夕焼け資本主義で創る未来」がテーマ。記念講演や夕陽観賞会など多彩な内容で、播磨灘に沈む夕陽を皆さんで見送りました。約80人が出席しました。
赤穂温泉・潮彩きらら祥吉ロビーから望む
播磨灘の夕景
夕陽を価値化
記念講演は、日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介さんがベストセラーの自著「里山資本主義」をもじって「夕焼け資本主義」と題して話しました。
藻谷さんのいう里山資本主義とは、現代社会では「お金に換算できない」ものを見直すこと。「木や半端ものの地野菜、空き家、耕作放棄地など貨幣価値のないものを工夫次第で金のなる木に変える。それで得たお金を地域内で回すのが里山資本主義です」。
「夕陽もそうです。人によっては悩みぬいたある日、すごくきれいな夕陽を見てがんばろうと思って助かった人もいる。そういうものはお金には換算できないけれども、そこに価値を見出すことはできるはずです」
「夕焼け資本主義」について話した
藻谷さん
里山資本主義を実践する具体例として、岐阜県の飛騨古川を拠点に「里山エクスペリエンス」という外国人向けツアーを行う美ら地球(ちゅらぼし)の取り組みを紹介しました。
ツアーは、13時半から17時の約3時間半をかけて田んぼと里山が続く中をサイクリングで回るという内容。藻谷さんは「1人いくらかかると思いますか?」と参加者に問い、7300円という答えに会場から驚きの声が上がりました。
藻谷さんは「これが里山資本主義なんです。金銭換算すると無価値のものが化ける。集客は一度参加した外国人がブログに書き込み、それがどんどん伝播していく仕組み」「なぜ人気があるか、それは田んぼの景観です。皆さんが無価値と思っているものに外国人は反応しているんです。逆にフランスでは、日本人が波のように続く麦畑に感動していることはまったく伝わりません」。
だから、ツアーでは日本人が当たり前と思っていること分かりやすく短い言葉で説明していき、この田んぼでできた米と伝え「おにぎりを食べさせる」。さらに、普通の農家のおばちゃんとの橋渡し役をツアースタッフが行い「参加者に野菜を持っていけと言ってくれるそうなんです。それに皆が感動している」。
藻谷さんは「夕陽という無価値のものを金に換える楽しみ方、企画を考えましょう。そこで得たお金を地域で回すことがポイントなのです」と話しました。
夕陽と語らいの宿ネットワークの岸本一郎会長は「夕陽を媒介にした語らいに価値を生もうとしているのが我々です」と話し、仲間に加わるよう呼びかけました。来賓の赤穂観光協会の西川英也会長は「美味しいものがあり、赤穂はいいところだと思っています。今後も観光をよくするよう皆さんと語り合いたい」と話しました。
パネルディスカッション 夕陽映える播磨3名城
パネルディスカッションは「城と夕陽とものがたりと」と題し、播磨地域の3つの城について意見を交わしました。
平成の大修理を終え、来春に内部公開が再開する姫路城。姫路城下町まちづくり協議会の芳賀一也副会長は「改修で真っ白になった天守閣に夕陽が照らされると黄金色に輝きます」「お城と日本酒が一対になっているのが播磨の特色」「千姫が見た夕陽を姫路のツアーとして企画します」。
龍野城については、龍野ふるさとガイドの山本冨士子会長が「龍野出身の三木露風の『赤とんぼ』が、夕陽のイメージだと思います。男はつらいよの舞台としても観光に取り組みたい」。
赤穂城については、たでのはな美術館の佐野正幸館主が「赤穂浪士だけではない」と強調し、製塩業などの歴史を詳しく話しました。
「城と夕陽とものがたりと」をテーマに議論
夕陽と語らいの宿ネットワークの顧問で俳優の油井昌由樹さんは、黒澤明監督作品「影武者」の撮影秘話として「姫路城の小天主から、夕陽評論家を名乗っている俺でも見たことのないような夕陽と出会いました」と絶賛。また、生前に渥美清さんが「夕陽といえば赤穂だねと仰っていました」とのエピソードを紹介しました。
最後に、フリーアナウンサーの水野かおりさんが今サミットの講演、パネルディスカッションを踏まえた「赤穂宣言」を読み上げ、参加者全員で宣言を採択。来年の開催地である兵庫県・淡路島での再会を約し、シンポジウムは終了しました。
夕陽観賞パーティー 黄金色に染まる播磨灘
シンポジウム終了後、会場を赤穂温泉・潮彩きらら祥吉に場所を移して夕陽観賞パーティーを行いました。
シンポジウム参加者の多くが観賞パーティーに残り、瀬戸内海の播磨灘を黄金色に照らしながら沈んでいくこの日の夕陽を見送りました。
播磨灘に沈む夕陽を観賞
観賞パーティーは、第3回夕陽と語らいの地域大賞の発表、画家の大西幸仁さんによる「夕陽アートライブ」、地元を中心に活躍されているシャンソン歌手の山田直毅さんとバイオリン奏者の井上雅善さんによる「夕陽コンサート」などが行われました。
大西さんのライブは、夕陽からパワーとインスピレーションを得て一気に描きます。絵筆をまったく使わず、元漫才師・ちゃらんぽらん時代の軽妙な喋くりもなく、描画中は真剣そのもの。会場から見た夕陽が即興で表れていく様は参加者の目をひき、できあがった瞬間には自然と拍手がおきていました。
大西さんは即興で夕陽を描く
この日描いた夕陽は、祥吉のロビーに展示されており、その数年前に描いた作品とともにご覧いただけます。
山田さんと井上さんはパーティー中の終始、美しい音色を響かせ、夕陽観賞を演出してくれました。ラスト曲の「情熱大陸」では、井上さんが会場中を所狭しと回って演奏。それまでの雰囲気と大きく異なり、たいへん盛り上がりました。
美しい音色で魅了したコンサート
参加者には地元産の日本酒や焼酎、瀬戸内の幸を使ったオードブルなどが振る舞われました。参加者同士で談笑したり、会場に展示された雲火焼の作品などを見入る人、夕陽の写真を撮影する人など、ホテルロビーの真正面に沈みゆく夕陽を見ながら語り合う時間を共有しました。
赤穂市に在住する女性の参加者は「普段は、特にじっくり見ることもない夕陽ですが、赤穂の夕陽は改めてきれいだと思いました。藻谷さんが講演でお話しされていたように、夕陽はお金には換算できないでしょうけど、赤穂の価値として見直したいと思います」と話していました。